2020/11/12
【インタビュー】東京向島『書肆スーベニア』未来のために新刊という木を植える、エモくてクールな古本屋。

東京で古本買取・販売をしているお店を巡り、これまでのこと、いまのこと、そしてこれからのことを、バリューブックス寄付担当・難しい本マニアの「廣瀬聡」がインタビューしていきます。今回は東京都墨田区向島にある『書肆スーベニア』の酒井さんにお話をお伺いしました。
目次
インタビューを終えて(廣瀬)
2015年『双子のライオン堂』(店主竹田さん)が主催する「本屋入門」というイベントで酒井さんと出会いました。 その時は独身の会社員だったが、今はちゃんと本屋さんになって奥さんがいる。東京古書組合で月曜日の「中央市」を担当して古書店の人たちの中で見る限りではしっかり一人前の東京の本屋さんになっている。 夢を追う男特有の「夢に縛られた切迫した不自由感」を全く感じさせないままにこの人はなりたい自分になっている... ホントのところを聞きたくて訪問し、実際、ホントのことを話してもらえたと思います。『書肆スーベニア』が向島にある理由
━━古本の買取は、どんな形態でやられていますか 酒井さん: 基本は店頭買取で、宅配も受付はしてるんですけど、積極的に宣伝もしていないので。ホームページとかには一通り書いてありますけど、そんなにはないんですよ。それプラス出張も僕一人きりでしかも営業車を持っていないので、基本は「台車」で行くことになりますという話をして。 だからこの向島界隈だけ、行かせてもらってるっていうぐらいの、すごい狭い商圏でやっていて。ほとんどもう買取のうちの9割以上は持ち込み頂いた物という形でやってます。 ━━ここに店舗を構えようと思ったのは、なんかキッカケがあったんですか 酒井さん: きっかけとしては、そうですね。今は違うんですけど、元々は住みながらやれるお店を探していて、選択肢が少なかったという中で、たまたまここ内見にきたら裏に神社があるんですけど、そこの神社で大吉出たからここでいいやっていう。 ━━えー!おもしろーい 酒井さん: たまたまその裏の「三囲神社」が、三井グループがいろいろ関わっている神社で商売うまくやっているグループだしそこの神社で大吉出るんだからいいんじゃないかなって、決めただけで。
「古本屋は中央線沿い」のセオリーを破ってみた
━━よみた屋さん、西荻、阿佐ヶ谷、吉祥寺(に店舗出した)って言ってたもんね。ある意味みんなの、ある種の憧れって言ったらおかしいけど。そういう場所だもんね。 そうですね。もう、いまどき古本屋やろうと思ったら普通は中央線でやらないと、やっぱきびしいっていうのがありますよね。東京都内で言ったらそうですね、ゼロからやるんならもう中央線じゃないとまずお客さんがいないので...。 ━━中央線沿いは集客が見込める? 中央線ってやっぱりその、サブカルからそのハイカルチャーまで含めて全ての層の人が住んでらっしゃるし、文化っていうものに対しての思い入れがそこそこある人たちがまだいっぱいいるんですよね。 それが生活に根付いているから古本屋とか本屋さんにも定期的に行く人が多いですし、その辺に対して憧れを持って地方から上京するとやっぱ中央線沿いに住むって方も凄い多いので。 だからお店のやり方としても色々あるんですよ、中央線の場合って。もうガチガチの古い本だけ、箱入りのISBNなんかあるわけがないような本だけを扱うこともできるし、(消費者にも)専門家もいっぱいいらっしゃるので。 一方ですごーいおしゃれな作りをしても、やっぱそういうの求めてくる人っていうのは集まってくるので中央線の場合は。だからいろいろやり方があるし、お客さんも外からも来るし元々住んでる地元の方もいっぱいいる。 て、考えると中央線が一番強いんですよね。 ━━基本は大学(の多さ)ですよね。お茶の水・神田界隈の大学、上智とかね。中央線は奥に行っても三鷹あたりにあってでそこにさっき言ってた田舎から来た人僕なんか端っこの方でしょ?新小岩の方とか江戸川あたりから御茶ノ水とか行くと、「おおっ!」ってなる。 まあそういう意味で人が集まりやすいし、そこまで新宿・渋谷みたいに家賃が高いわけでもない、ちょうどいいところなんですよね、中央線って。 ━━最初はやっぱり(中央線沿いで)探してた? そうですね。まぁ、住みながらっていう条件で探してたのもあって。僕、実は古本屋を始める前に友達と共同オーナーみたいな形で、家賃を折半してカフェをやってたんですね。 それが高円寺にあったので、中央線上のそうゆうモノっていうのを知った上で「あんまり俺合わないな」と思っていたんですよ。 ━━あー、そういうのもあったんですね 商売としてはあっちの方がすごいいいけど、実際自分も住むしどうなんだろうってなった時に。たまたまこっちの、まあそんなでもないですけどまだ下町っぽい部分があったりする方が、僕も地方出身なのでなんとなく近しいものもあるし、住みやすそうって。未来のために「新刊」という木を植える

古本買取による「本の地産地消」

本のイベントについて
━━イベントは イベントは、いまほとんどやってないですね。トークイベント、昔一回だけやったんですよ。その時は一応本に絡んでいて、その本の著者の知り合いの、ロックバーを会場に借りて、トークイベントやらしてもらって。 一応イベント自体は成功したんですけど、結局イベントの準備とか、一応連動フェアとかここでやったりしていて。でも準備とか色々やってるうちに、通常の仕事が回らなくなっちゃったんですよ。で、これ意味ないなーって思って。 ━━ひとりですもんね。大変ですよね はい。ていうのでまあトークイベントはとりあえず、それ以降やってなくて。展示関係も何度かやったはやったんですけど、お店も小さいし、棚を大きく占有してしまったりするのが、どうなのかなっていう。 専用のギャラリー用の壁とかを用意してればできるんですけど、そこまで、んーっていう感じなんですよね。 ━━一回(イベント)やってみて、ちょっと考えた 開店して1年2年ぐらいはそういうイベントフェア、展示なんかもやりましたけど ━━あんまりメリットがなかった 僕の性格の問題もあるんでしょうけど。例えば、場所は渡すから後はそっちでスケジューリングやって勝手にやってくれ、みたいな本屋さんもあるとは思うんですけど。僕はそれできないので。自分たちで作って売る、自分たちが欲しいモノを。
━━本以外を売る作戦っていうのは 「しおり」と、この前「サコッシュ」を初めてオリジナル商品として出して。
本と「出会う」価値

古本業界のエコシステム・生態系の話
━━ささま書店の話で、西荻あたりだとそこでの文化圏で本が回ってるんで、「そこで売ってくれる本はそこで売れるんだよ」って理想系を聞いたことがある。まあでも彼らのやり方の話もあるんだろうけど。 ささまさん、やめちゃいましたよね。 ━━一時代を築いた伝説の書店だったけど、(やめちゃったって)知らなくて、昨日「えっ!」てなったけど。「本の導線」みたいなものがあると思う。僕は、その場(地域)で回るのがすごいんじゃないかと思ってたけど。ささま辺りのあの「(お客さんの)内臓掴んでる感じ」というか「回ってる感」がすごいなと。バリューブックスには実は見えてない循環がある。酒井さんとか、ささまさんとか、古書組合の人の頭の中にはなんか見えないモノが見ている気が... 確かに古書組合にいっつも出入りしていると、生態系みたいのがすごい見えますね。
メルカリの勢い
━━メルカリも結構(市場の話と)似ている気もするんですよね。あの人が出品したやつを買えば間違いないっていう信頼みたいな。評価もつくシステムだし。 それ、すごい見てて思います、僕も。 フォロー機能があるんですよ。それで、意外だなーと思ったのが仕事を引退された定年を迎えられた方とかが趣味で集めてた骨董品とか古道具を、自分のお店としてメルカリで売ったりとかしはじめてて。そのメルカリ上の骨董界隈みたいのできあがってて。 ━━おおーメルカリすごいなぁ そこにたぶん「この人は商売人だろうな」っていう、ガチの人とかもメルカリでアカウント作って結構出してたりします。やっぱそういうとこにはフォロワーがもう何百人ってついてて。 ━━バリューブックスも販売サイト立ち上げて、自分たちで買取と販売を回して、自分たちの経済圏をつくろうとしている 今ほんと、ブランディングというか自分ところでの経済圏なりを作るのっていうのは、すごいやりやすくなったなと思うんですよ。 昔は本当ね、カート機能借りて、クレジットカードの代行と契約して。高い手数料払わなきゃいけないみたいのすごい多かったですけど。結局、いま簡単に始められるところで言うとアマゾンが一番高くなっちゃいましたからね、手数料。 (メルカリだと)10%で、らくらくメルカリ便とか使ったら、一般人でもすごい安く使えちゃうし、ヤフオクでも今普通のアカウントで10%ですからね。 ━━記事制作の企画で、アマゾン・メルカリ・ヤフオクでどこが一番本を高く売れるかやったとき、ヤフオクは見ている人が少なくて、売れるスピードが遅かった。メルカリなんかも一瞬で出したら売れたんですけど、ヤフオクは2週間くらいかけて値段下げてって、やっと売れた!みたいな。 ヤフオクはもう趣味人しかいないんですよ、ほとんどが。だから出たばっかりの本は、やっぱりメルカリはアマゾンの方が反応が早いですね。 ━━ああ、集まる人が違うんだ そうですね。ヤフオクって結局もう使いづらいんですよ。ただ、あんだけ大きいシステムなので、ガッツリ変えられないっていうせいでどんどん古臭いシステムになっちゃてて。多分今一番フリマっぽいサービスの中でいざ買ったら、やり取りがすげえめんどくさいってサイトになっちゃってるので。 ━━それでもヤフオクなら売れそうだなというモノもあるんですね ありますね。逆にもうどんどん客層が分かりやすくなっているので、例えばもう古いミニカーのおもちゃとかだったら、ヤフオクが一番高く売れる。時間は多少かかるんですけど。 でも、長い目で見たらヤフオクは厳しいって思いますね。結局客層も年齢そうも高いので、どんどん、ね。メルカリはすごい楽ですよね。 ━━(メルカリは)送るのも楽だし。でもヤフオクもありましたよね。メルカリらくらく便みたいなやつ ああヤフネコパックっていうんですけど、あれ最大の違いが、ヤフオクのやつは営業所かコンビニに持ち込まないといけないんですけど、メルカリ便って取りに来てくれるんですよ。しかも1件30円で取りに来てくれるんですよ。おかしいでしょ!? ━━ええっまじで! だって送料自体があんなに安いのに、プラス30円で取りに来てくれますって言うから、一個あたりプラス30円で来てくれるっておかしいでしょ ━━そういう契約してるわけじゃなくて メルカリの(一般向け)システムとして提供されてる。 ━━知らなかった。どんどんみんなメルカリ使うよね、そしたら。ヤバいですね。でも役割はバリューブックスとはちょっと違いますよね。一度にたくさん(の本を)整理したいとかっていう場合はウチを使ってもらった方が(ラク) ━━(メルカリを)十分に活用している感じですか そうですね。とにかくやれるものを一旦やってみないことには、ていうのがありますし、逆に組合に入ってるおかげで、いわゆる老舗とか大店(おおだな)って言われる古本屋さんに、いまからたどり着くのは百パー無理だと思ってるんですよね。いまから、じゃあ10年後によみた屋さんぐらいになります!って言っても多分無理なんですよねもう。 ━━すげえ見切り... できる人はいると思います。実際に、神奈川のイセザキモールでやってる『馬燈(まとう)書房』さんは、そういう人ですけど。 ━━無理っていうのは、どういう部分でそう思いますか こればっかりはなんかその、本人の才覚みたいなものはあるんですけど。 とにかく本を覚えたり、古本屋的なモノを覚えるのはすごい速い人って絶対いるんですよね、たまに。で、それプラスビジネスがちゃんとできるって言う人が、結局よみた屋さんとか、あんまり表には知られてないけど、ちゃんとやれる古本屋さん、高いものを扱ってるようなところはなれると思うんで。 ━━(老舗・大店を)目指したいみたいな気持ちはあるけどっていう感じですか そこまででもないですけど。でもやっぱり、単価の高い黒っぽい本をメインに扱う古本屋さんの方が、商売としては安定していますね。そういう意味で言えば、そうなりたいなと思いますけどね。ちゃんと「ビジネス」として本を扱う
━━昨日、よみた屋の澄田さんが、「自分は買取で、販売、値付けは他の人がやっている」って言ってて。ひとりでお店やられてるってことなんですけど、自分で買取して自分で売るってなると、「これは売りたくないから高くしちゃえ!」みたいなことはない 本が好きすぎる人は値付けに向いてないとか、そういうのはあると思うんですよ。 でもまあ、なんだろうな。普通に出版社にもいたからでしょうね。作るコストを知ってるので。僕、本の内容には惹かれてるものとかもあるんですけど、それはそれで、やっぱモノでしかないと思ってる部分が大きいので。 ━━そこは自分の中で全然バランスが取れてる そうですね。どうしても大事にしたいっていう本があれば、それは新刊で売るんですよ。古本で入ってきても店頭には出さずにアマゾンとかに出しておいて、そっちはそっちで売れればいいやっいうのはあって。 店頭には基本ちゃんとこれが重版されたりして、また誰かの手に届くようにしたいっていう本は新刊でしか売らないです、基本は。 ━━ああ、そうやって決めてるんだ。すごいこれからの出版のこと、紙の本のこと

「苦じゃない」「できる」仕事で独立を考えてみる
━━本屋を始めたきっかけは 元々は、最終的にはなんか自分で出来れば、自分でやれるのが一番気が楽だし、誰にも命令されないしと思っていた中で、ホントたまたまだったんですよね。 最初に出版社の方に勤めて、その後倉庫に来て。じゃゃあ製造と流通は見たんで、あと販売をやったことないからやろうかなっていうのが最初のきっかけ。 ━━出たーホントいまどきの若い人たちはきっちりしてるわ。大学を卒業されてからずっと本関係の仕事ですか 大学出て、最初は実は僕、ネットの広告代理店にいたんですよ。そこに1年ちょいくらいでしたけど。辞めて、で、リーマンショックが起きて再就職できないってなっちゃったんですよ。そっからそれなりに貯金してたのでいろいろ好き勝手やったり、YouTuberじゃないですけど、それに近いようなことやってたりとか。 ていうのをやってるうちにお金がなくなっちゃったので、就職しなきゃってなって入ったのが出版業界だんたんですよ。 ━━いまおいくつ? 今年で37才ですね。 ━━出たー!僕的にいうとね、あの黄金世代の逆みたいな感じで、ワイルド世代って呼んでて。ウチの社長もそうでしょ?情報ステーションってとこのやつもそうだし、双子のライオン堂の竹田さんもそれですよ。同年代みんな何が共通してるかって言ったら、普通の会社に勤めたくないっていう。ていうか勤められなかった。ウチの社長もそうだし。本人も嫌だって言ってたけど、あのときの雰囲気もそういう時代だったような気がする。氷河期っていうか超氷河期だから。ワイルド世代はね、強いですよ。 ━━出版社に入りたかった 本が好きで、まあ嫌いな人がいるとも思わないんですけど。(笑) 好きなので、たまたま「あぁ出版業界入れるんだー」と思って応募して、普通に「あぁいいっすよ」ってなった。 ━━じゃあ元々(本に関わる仕事が)苦じゃなかったんだ『書肆スーベニア』のこれから

『書肆スーベニア』の本屋としての在り方
━━最後に、「本屋としての在り方」をお聞きしてもいいですか うちってそのイベントもやってなかったりっていうのもあって、サロン的な本屋さんをやるつもりもないですし、人と人のつながりとかどうでもいいと思ってるんですね。 ━━おぉー ここはあくまで、現状それしかできないってのもあるんですけど、僕は本を飯のタネとして扱って、みんなが買ってくれると僕がご飯食べられるし、お店が続きますっていう。みんなはとりあえずここに本屋があって、好きな本買えるっていう状態を維持できますよって言うだけでしかないと思っているので。 そのためにはお客さんの顔を思い描きながら、新刊を仕入れたりもしますし、古本も値付けをしたりしますけど。 でも特に、こういう下町にいると個人のお店もまだいっぱいあるので、近所でラーメン食ったり定食食ったりすると、結局そこの全然違うお店、商売でもやっぱ同じ感覚なんじゃないかなっていう。常連さんとか、そういうのはもちろんありますけど。 基本的には別にそれを死ぬほどやりたくてやってるわけでも、うちのお店を常連さんだけでただ回したいだけかっていうとそうでもないし。基本的には自分がたまたまできるようになったことで飯を食べてて、それがみんなで回ればいいねぐらいにしか思ってはいないと思うし、それで十分だと思っています。 ━━いいこと言いたくなる、ストーリーを語りたくなる場面で、さらっと包み隠さず出せるところが素敵だなと思います キレイゴトというか、そういうエモい商売って、いま、できるじゃないですか。でもそれって一番弱いし、「エモいブーム」が終わってしまった瞬間に終わる商売になっちゃうんで。んー。そこに頼ってしまうと後がないなっていうのはありますね。組合にいたらそういう商売やってた人で、生き残ってる人いないですもん。 ━━あぁそうかぁ 外見はずっとエモいまんまの、裏は凄いガチガチな古本屋はいっぱいありますけど。(笑) ━━新刊主体は絶対に続ける?冒頭の話と、いまの最後の話はズレだなと思って やりたいとは思ってますけど。 でもそこって僕個人としての気持ちだけであって、その経済ってか僕の懐とはまた違うとこなんですけどね。いま僕子どもいないですけど、子どもできてお金がかかるようになった時に、もっとお金ないと駄目ってなったら、新刊バサっとやめるかもしれないし。 ━━あぁ、そうですよね。いいとこどりはしたいですけどね それなりに新刊をちゃんと続けようと思ったら、やっぱりイベントなりを回さないといけないのかなと思いますけどね。新刊の方がやっぱりイベント重要ですからね。 ━━旬のモノをその時にちゃんとっていう意味では、そうですよね やっぱり古本も扱ってるので、新刊に手間がかけられないんですよ。そういう意味で仕入れも全部ほぼ取次経由なんですね。いちいち直取引しないんですよ。 別にそれで直取引して、それで正味(原価)が1割下がります、ってなっても、その手間の方が無駄と思ってるんで。古本に値付した方が全然儲かると思ってるから。 でも取次経由でやってると当然、版元とのつながりはあんまりないわけですよ、僕の場合。で、イベントとかもだから別にどっかに話持ってってもできるって事もないので、そういう意味で言うと新刊に関してはこの先ちょっと厳しいかなとかは思ったりはしますけどね。 (ここでインタビューは終了しました)あらためて、古本買取について思うこと(廣瀬)
「古本買取」は本の生態系の中の最重要な機能です。その機能を磨き続けなければならないという自分の中の切迫感が特にコロナ禍の閉塞の中で強くなってきました。 「一人本屋」という最小単位で生き抜く酒井さんに役に立つノウハウを教えてもらえると期待して『書肆スーベニア』に訪問したのですが、恐らく失敗したみたいです。(笑) 酒井さんはこの年代特有(と私は思える)の理詰めのアプローチで仕事を捉えていますが実際行動は矛盾に満ちています。住み心地とおみくじで店の場所を選び、儲からないのに新刊を売り続けつつ古書組合で学ぶ。有名古書店を尊敬しつつも目標やモデルにはしない。「本はメシの種」と言いつつ「エッセーが好き」と微笑む。「エモいのは長続きしない」と言いながら「お客さんの顔を思い描き」ながら新刊を仕入れる。 結局、「古本買取」とか「古書店」とか、そういうメタな名称は意味が無いのかもしれない。 言語化と数値化がないと、拡大と効率化を「見える化」できないので、資本主義ではやっていけないのですが…。『書肆スーベニア』と酒井さんは一つしかないので(この人はアルバイトを雇う気もない、今のところ…)拡大は絶対ない。 参ったな。せっかく「古本買取」の実質では無くて形式面を磨き上げることでこの苦境を脱することができないかと考えついた気がしたところだったのに…。 本を売る人(買う人)それぞれの実質に向き合うことがやっぱり大事なんだと思い始めてしまいました。